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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)5981号 判決 1962年5月12日

判  決

東京都千代田区神田神保町一丁目三番地寿ビル内

原告

野村憲夫

右訴訟代理人弁護土

金原政太郎

東京都千代田区神田錦町三丁目二〇番地

被告

神田運送株式会社

右代表者代表取締役

原島正吉

右訴訟代理人弁護士

小林賢治

右当事者間の昭和三四年(ワ)第五九八一号建物収去土地明渡請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一、被告は、原告に対し別紙物件目録第一記載の各建物を収去して、同目録第二記載の土地を明渡せ。

二、被告は原告に対し、昭和三四年三月一日から右土地の明渡しずみに至るまで一ケ月金三万五千百八〇円の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、別紙物件目録第二記載の本件土地のうち、一八〇坪四合六勺(以下第一土地と言う)は、原告が、昭和一二年六月一日、当時の所有者であつた訴外合名会社安田保善社から賃貸借期間を三〇年、目的を防火構造建物の所有として賃借し、残りの二〇坪八合(以下第二土地と言う)は、昭和二二年五月一日、貸借期間を二〇年と定めて、右安田保善社から借増しをなし、その後訴外永楽不動産株式会社が創立され、昭和二五年九月一日、右安田保善社は現物出資として本件土地を含む宅地五九六坪四合九勺を永楽不動産株式会社に譲渡したが、右賃貸借契約はそのまま引継れ、現在に至つている。

二、原告は右第一土地を賃借後右地上に木造モルタル塗り二階建店舗を所有したが、右建物は昭和二〇年三月九日戦災のため焼失し、原告は同所に店舗を再築する目的であつたが当時の物資不足から建築は略三年位見合すほかなかつたので、右第一土地は空地のまま所有する意図であつたところ被告は、被告の営業たる運送業用トラツクの臨時置場として右土地を転借したい旨懇請し、ために昭和二一年四月一日、臨時使用の目的で、これを転貸した。従つて右転貸借につき原告は被告との間に、特約として、被告会社は右土地をトラツク置場に使用すること、転貸借の日から向う三年以後において原告が自己建物建築の場合又は土地を必要とする場合には、何時でも無条件で明渡すことを約定した。

その後、昭和二二年五月一日に原告は右安田保善社から第二土地を賃借し、同じく被告の懇請により、同日第一土地と同一条件で被告に転貸したのである。

三、被告は、右第一及び第二土地上に、木造仮設建物で、柱と屋根の上屋式作業場である別紙物件目録第一記載の、並びに(ハ)の各建物を築造所有するものであるが、右建物の敷地使用面積は合計六一坪五合に過ぎず、残余部分は空地のままトラツク置場等に使用している。

四、而して、原告は、昭和二四年秋頃から、本件土地上に自己の事務所店舗を含む鉄骨鉄筋コンクリート造地上一〇階地下一階建のビルヂィング建築の計画を立て、右ビルヂィングの建坪は地上一階及び地階で各々一七九坪九合五勺余を要するところから、その敷地として、本件土地全体を必要とするところから、その敷地として、本件土地全体を必要とするので、被告に対し、転貸借契約に従つて、土地明渡の請求をなしたが、被告はその都度暫時の猶予を求め、ひたすら日時の遷延をはかるのみなので、原告は、改めて、昭和三四年五月二四日右転貸借契約を解約し、その旨内容証明郵便をもつて被告に通知し、右通知は翌二五日被告方に到達した。

五、よつて被告に対し、右被告所有の建物を収去して本件土地の明渡を求めるとともに、昭和三四年三月一日現在に於ける本件土地転借料は、一ケ月三五、一八〇円の定めであるのに、被告は昭和三四年三月一日以降その支払をなさないので、同日から右転貸借解約の日たる同年五月二五日迄の右金額の割合による延滞賃料、及び右解約の翌日たる同月二六日から右建物収去土地明渡に至るまで、右転借料相当額の損害金の支払を求めるため本訴に及んだ」と述べ被告の抗弁を否認した。

被告訴訟代理人は「原告の請求は棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、「本件土地が訴外永楽不動産株式会社の所有に属し、原告が、右会社から賃借していること、本件土地を原告から被告が転借していること、右土地上に、原告主張の建物が所在し、旦つそれらの建物はすべて被告の所有するところであること、原告主張の日、原告主張の転貸借解約を内容とする内容証明郵便が到達したことを認め、請求原因第一項中のその余の事実は不知、その余の事実は否認する。」と述べ、被告が本件転貸借契約に付し差入れた念書は第一土地転借の際作成されたものでなく、第二土地追加の際、何等かの形で契約関係があることを明らかにするため、これを原告に差入れたもので、従つて右書証にはトラツク臨時置場なる転貸目的の記載がなく、旦つ「転借の日から向う三年以後において原告が自己建物建築の場合又は土地を必要とする場合には何時にても無条件で明渡すと」の記載は当時の状況としては単に転借料改定の時期を一応の目安として記載したに過ぎないのである。

特に右転貸借の一時使用の特約につき其反証として次の如き事実を述べた。

(1) 被告の前身である訴外錦華運送株式会社は昭和一六年に設立され、右設立と同時に同会社は原告から当時第一土地上に所在した原告所有のガレーヂを借り受け、更に昭和一七年右会社が出版輸送有限会社に統合された後も、右ガレーヂ及びガソリンスタンド、倉庫等を賃借し、昭和一八年一一月には、被告会社が設立され、右出版輸送株式会社は被告会社に統合吸改されたが、右ガレーヂ等の賃借関係はそのまま引継がれ、昭和二〇年二月一五日の戦災で右ガレーヂ等が焼失するまで右賃貸借は継続したのである。而して被告は、右ガレーヂ等が全焼したので改めて本件土地を工場敷地として使用する目的で、まず第一土地を転借し、更に原告が第二土地上の借地権を得たので、右第二土地を借増したものである。以上の経過の如く、被告は本件土地を昭和十六年以来継続して、平穏裡に占有使用して来たのであるから、本件転借がにわかに一時使用の目的であると主張されるいわれはない。

(2) 被告は、本件土地転借後、昭和二一年五月には工場建築法に基く自動車整備工場の建設を出願し、同年七月竣工同年八月八日認可、翌二二年には労働基準監督署の工場認可を得て、半永久的な施設を本件土地内に設備し、しかも建物建築に当つては原告の承諾及び土地所有者の承諾を得ているのである。(3)また、本件建物が原告主張の如く上屋式の臨時仮設建物であるにしても、それは、当時物資不足のため良材入手が困難なためと、もともと工場用建物であるから一般居住家屋程度の吟味した工事は不必要なので、上屋式にしたに過ぎない。(4)原告は、本件地賃貸後殆んど毎年の如く転借料の値上を行い被告は異議なくこれを承認して来たものである。しかも原告は、右転借料の半額を土地所有者に支払い、残余を取得して転貸による利益を亨受しているものである。以上の事実から明らかな如く、事件土地の転借は原告主張の如き一時的使用のものでないことは明らかである。

更に抗弁として、

(一) 仮りに右転貸借契約が一時的使用の目的で転貸されたものであるとしても、被告の建築許可申請に対する原告の明示又は黙示の承諾によつて、昭和二一年五月、新たに工場敷地を目的とし転借期間を二十年間、これが認められない場合は、賃借権の期間である昭和四二年五月三一日迄とする本件土地の転貸借契約が成立したのである。

(二) 仮に右主張が認められないとすれば、原告が整備工場と明らかに認めたことにより、昭和二七年五月一日、原告被告間に転借目的及び転借期間を前項同様とする転貸借契約が締結されたのである。

と述べた。

証拠(省略)

理由

本件土地が訴外永楽不動産株式会社の所有に属し、右土地を原告が同会社から賃借していること、而して、原告が本件土地を被告に転貸したこと及び右土地上に原告主張の建物が所在し且つ右建物が被告の所有するものであることは、当事者間に争いない。

そこで、原告主張の右転貸契約に伴う一時的使用の特約の存否につき判断する。

(証拠)を綜合すれば、原告は本件土地の内、第一土地(一八〇坪四合六勺の部分)を昭和十二年六月一日、当時の所有者たる合名会社安田保善社から賃借し、右地上に住宅付ガレーヂを築造してガレーヂ業を営んでいたこと、被告会社は、その前身たる錦華運送株式会社が昭和十六年に設立されて以来右原告ガレーヂを利用して営業用自動車の保管に当り、右原告ガレーヂについての利用関係は昭和二〇年二月二五日戦災によつて原告ガレーヂが焼失する迄引継き持続されていたこと、右原告ガレーヂ焼失によつて直ちに自動車の保管について苦慮した被告会社は、戦災直後、原告に対して、右ガレーヂ焼失跡の本件第一土地を従来のガレーヂ営業の継続延長として使用したい旨申込み、原告も右申込を承諾して本件第一土地はいわば無蓋のガレーヂとして利用されていたこと、而して本件第一土地と接続する本件第二土地も右戦災によつてその地上に存在する建物が焼失し、そのため、右第二土地を同じく安田保善社から賃借していた訴外某(氏名不詳)は昭和二〇年の暮頃、建物再築の見通しのないところから、被告会社との交渉を通じて原告に対し右賃借権を譲渡し、原告は右譲受について安田保善社の承諾を得たこと、(但し、右譲受に関する安田保善社の承諾について「地所賃借書なる書面が作成されたのが、右承諾後の昭和二二年五月一日であることは(証拠)認められるところである。)、而して原告は第二土地を賃借後直に被告に対し第一土地同様に無蓋ガレーヂとして利用させて来たが、昭和二一年春頃に至つて、被告は原告に対し右第一及び第二土地全体を従来の単なる自動車臨時置場として使用する以外に、右土地上にバラツク建物を構築、被告会社の営業用自動車の簡易な修理整備を行うため、右修理場の敷地として改めて賃借したい旨を申込み、これに対して原告は、右土地上にいずれ自己所有の店舗を建築する意図であつたので右申込を一旦は拒絶したが、当時は、新車の購入が極めて困難な戦後の物資欠亡時代であり、運送業を営む被告会社にとつて車輛の整備修理場を保有することは必要不可欠な状態であつたところ、同区神田三崎町にあつた被告会社の修理工場は前記戦災で全焼しその結果右工場敷地を地主に返還していたので、被告会社にとつて自動車修理場の確保は焦眉の問題であつたため被告会社は、まず当面の修理場として、本件土地を短期転貸借の目的で転借したい旨再三原告に懇請したこと右再三の申込によつて被告会社の困窮していた状態を知つた原告は、被告会社が昭和一六年以来の原告ガレーヂの得意先であつたこと及び前記の如き資材不足の折柄原告が企図する店舗の建築は、二、三年間実現の見通しが立たなかつたこともあり、加えて、被告会社は当面の修理場として三年間使用し得えれば、その後原告が自己建物建築その他の本件土地を必要とする事由が発生すれば、直ちに右土地を明渡す旨の念書を作成して来たので結局昭和二十一年四月一日、原被告会社間に本件土地(第一、第二土地含め二〇一坪二合六勺)を、被告会社がその地上に簡易な修理工場を建築し、自動車修理場として使用する目的で、転借料一ケ月四四二円二〇銭期間三年間、但し以後三年以後は、原告に於て自己建物建築その他本件使用の必要があるときは右請求あり次第被告会社は直ちに本件土地の建物を収去して本件土地を明渡すとの特約を条件として、本件土地転借についての合意が成立したと認めることができる。被告は右三年の期間は右転借料金改訂の時期に付一応の目安を示したに過ぎない旨主張するが、右認定に反する証人(略)の証言(前記信用した部分を除く)は前掲証拠に照したやすく信用することができず、他に右認定は覆すに足る証拠はない。

被告会社は右特約の存在を争い其反証として種々の事実の存在(前記被告答弁の(1)乃至(4))を主張するが、(1)この点に付ては原告本人尋問の結果によれば、被告及其前身会社が本件転貸借成立以前本件地上にあつた原告所有のガレーヂを其所有自動車の保管場所として時々利用したことがあることが認められるが右原被告間の関係は被告が、原告ガレーヂの利用者の一員であることを超えるものでないことが認められ、右事実が存するからと云つて前記認定を覆すに足る資料となすに足りない。

(2)(3)の主張については被告が利益に援用する(証拠)を綜合しても前記認定を覆えし本件建物が被告主張の如く原告の承諾のもとに半永久的施設として築造されたものと認めるに足りない(4)の転借料値上の事実は原告に於て明らかに争はないところであり、原告人尋問の結果によれば、本件転貸借当初から原被告間に転借料は賃料の倍額払の特約があり且つ所有者の賃料値上げに伴つて転借料の値上げが行われたと認めることができるが事実の存在も前記認定を覆すものではない。

被告は、昭和二十一年五月一日、本件土地を目的として、新たに期間を二十年又は賃貸借終了のときたる昭和四十二年五月三十一日迄とする転貸借契約が、本件建物建築許可申請についての明示又は黙示の承認により成立したと主張し、仮りにもし右転貸借契約が認められないとしても、昭和二十七年五月一日原告は本件土地が被告の整備工場敷地であることを認めたのであるから、同日をもつて新たに期間を同日から二十又は昭和四十二年五月三十一日迄とする本件土地転貸借契約が締結されたと主張するが、いずれもこれに符号する証人(略)の証言は当裁判所が措信せず、前記(省略)の七によつては、まだ被告主張事実を証するに足らず、他にこれを認むべき証拠はない。

そうすると、右短期転貸借の特約を伴う本件転貸借契約は借地法上の所謂一時使用の目的をもつて設定された転貸借と見るを相当とするところ、(証拠)を綜合すれば、原告が本件土地上にビルディングを建築するため本件土地を必要とし、そのため右転貸して三年経過後、たびたび被告に対して右土地明渡を請求したことが認められ、且つ昭和三十四年五月二十四日付の内容証明郵便をもつて右特約に従う明渡請求をなし、右通知が翌二十五日に被告方に到達したことは当事者間に争いないから、本件土地賃貸借契約は之により有効に解除されたものと云うべく被告は、右特約に従つて本件家屋を収去して本件土地を明渡すべき義務を負つていることは明らかである。

而して(省略)及び弁論の全趣旨によれば、被告が昭和三十四年三月一月以降右転借料を支払わず、且つ右転借料が当時一ケ月金三五、一八〇円の割合であつたことが認定できるから、右遅滞の日から右明渡請求のあつた昭和三十四年五月二十五日迄の遅滞転値料及び同日以後本件土地明渡に至るまでの右賃料相当額の損害金を支払うべき義務を負うことも明らかである。

よつて原告請求は以上認定の如くすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。尚本件に付ては仮執行の宣言を付するは相当でないと認め之を付さない。

東京地方裁判所民事第十七部

裁判官 池 野 仁 二

物件目録(省略)

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